親の介護にかかるお金:夫婦で現実を知り、話し合いを始めるには
親の介護にかかるお金:夫婦で現実を知り、話し合いを始めるには
親御さんの体の変化が進み、介護が必要になった場合、避けて通れないのが「お金」の問題です。介護にはどのくらいの費用がかかるのか、誰がどのように負担するのか、そしてそれが自分たちの今後の生活や老後資金にどう影響するのか。これらの経済的な不安は、漠然としているだけに心を重くすることがあります。特に共働きで忙しい日々を送る中で、パートナーとじっくり話し合う時間を持つこと自体が難しいと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、介護にかかる費用の現実から目を背けず、夫婦で共に情報収集を行い、話し合いを始めることが、不安を軽減し、冷静に対応するための第一歩となります。
介護にかかる費用の内訳と現実
介護にかかる費用は、親御さんの体の状態や利用するサービスの種類、住んでいる地域などによって大きく異なります。一般的に考えられる費用の内訳としては、以下のようなものがあります。
- 介護サービス利用料: 訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)など、介護保険を利用して受けられるサービスの自己負担分(原則1〜3割)。施設の利用料もこれに含まれます。
- 医療費: 持病の治療や通院、入院にかかる費用。
- 日用品費: おむつ、ポータブルトイレ、介護食など、介護に必要な物品の購入費用。
- 住居費: 住宅改修(バリアフリー化)の費用や、施設に入所した場合の居住費・食費など。
- 交通費: 病院への送迎や、遠方に住む親御さんの元へ通うための交通費。
生命保険文化センターの調査(2021年度)によると、月々の介護にかかる費用は平均で約8.3万円、介護期間は平均5年1ヶ月となっています。一時的な費用(住宅改修や介護用ベッド購入など)の合計平均は約74万円とも言われており、合計すると数百万円単位の費用が発生する可能性があることが分かります。これはあくまで平均であり、個別のケースではこれより高額になることも、低く抑えられることもあります。
活用できる公的な支援制度
介護にかかる費用負担を軽減するためには、公的な支援制度を理解し、活用することが重要です。
- 介護保険制度: 40歳以上の方が保険料を支払い、認定を受けることで、自己負担割合1~3割で様々な介護サービスを利用できます。サービスの利用には「要介護認定」が必要であり、ケアマネジャーが作成するケアプランに基づいてサービスが提供されます。
- 高額介護サービス費: 1ヶ月の介護サービス自己負担額が、所得に応じて設定された上限額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度です。これにより、自己負担額には上限が設けられています。
- 医療費控除: ご自身や扶養家族のために支払った医療費が一定額を超える場合、所得税の控除を受けられます。介護サービスの中にも、医療費控除の対象となるものが含まれる場合があります。
- 高額療養費制度: 医療機関の窓口で支払う医療費が1ヶ月で上限額を超えた場合に、超えた額が支給される制度です。介護と医療の両方の費用がかさむ場合に重要となります。
これらの制度は、申請しないと利用できません。市区町村の窓口や地域包括支援センターで情報収集を行い、必要に応じて申請手続きを進めることが大切です。専門家(ケアマネジャーやファイナンシャルプランナーなど)に相談するのも良いでしょう。
夫婦で話し合うためのステップとポイント
親御さんの介護費用について、夫婦で現実と向き合い、話し合いを進めることは、円滑な介護のためだけでなく、お二人の関係性を良好に保つ上でも非常に重要です。
- 情報共有から始める: まずはお互いが抱いている親御さんの体の変化に関する情報、不安、そして「介護費用」というテーマに対する漠然としたイメージを共有しましょう。現時点で分かっていること、分からないことを整理します。
- 現実の数字を知る努力をする: 上記で触れたような介護費用の一般的な目安や、利用できる公的制度について、夫婦で一緒に情報収集を行います。インターネット、書籍、自治体の窓口、あるいは専門家の話を聞きに行くなど、方法は様々です。遠方に住む親御さんの場合は、地域の特性によってサービス内容や費用が異なる可能性があるため、その地域の情報収集も必要になります。
- 親御さんの状況と意向を確認する(可能な範囲で): 親御さんご自身の経済状況(貯蓄、年金、加入している保険など)、そして今後の生活や介護に対する意向を、率直に、しかし配慮をもって尋ねてみましょう。親御さんが話すことに抵抗がある場合や、既に判断が難しい場合は、ご兄弟など他の関係者と連携しながら進めることも必要になります。
- 夫婦それぞれの経済状況と将来の計画を共有する: 親御さんの介護費用は、夫婦の家計に影響を及ぼす可能性があります。お二人の現在の収入、支出、貯蓄、自分たちの老後資金計画について、改めて正直に話し合います。親御さんへの経済的サポートをどの程度まで負担できるのか、無理のない範囲を検討します。
- 具体的な費用の分担方法や役割を話し合う: 介護費用をどのように捻出するのか、誰が費用を管理するのか、情報収集や手続きはどちらが主導するのかなど、具体的な役割分担についても話し合います。兄弟姉妹がいる場合は、どのように連携し、費用や負担を分担していくかについても話し合う必要があります。遠距離の場合は、直接的な介助が難しいため、その分経済的なサポートの割合を増やすといった話し合いも生じるかもしれません。
- 定期的に見直す: 介護の状況は変化していきますし、それに伴い費用も変動します。一度話して終わりではなく、定期的に夫婦で、そして必要であれば親御さんや他の家族も交えて、状況を確認し、話し合いの内容を見直す機会を持ちましょう。
話し合いの際には、感情的にならず、お互いの意見を尊重し、共感の姿勢を示すことが大切です。「話しにくいな」「相手が乗り気じゃないな」と感じる場合でも、責めるのではなく、「一緒に考えていきたい」という前向きな気持ちを伝えることから始めてみてください。時には、夫婦だけで抱え込まず、ファイナンシャルプランナーやケアマネジャーといった第三者に相談し、客観的なアドバイスを求めることも有効です。
まとめ
親御さんの介護にかかるお金は、多くのご夫婦にとって現実的な不安の一つです。しかし、この問題に夫婦で共に向き合い、必要な情報を集め、率直に話し合うことで、漠然とした不安を具体的な課題へと変え、解決に向けた道筋を見つけることができます。
完璧な答えや計画は、最初から見つかるものではありません。まずは夫婦で「一緒に考え始める」ことからスタートしてみてはいかがでしょうか。お互いの状況を理解し、支え合いながら、一つずつ課題を乗り越えていくことが、結果としてより良いパートナーシップにも繋がっていくはずです。