体の変化を受け止めきれないとき:夫婦で寄り添い、不安を乗り越える心の支え方
はじめに:体の変化が心に与える影響
病気や加齢などによる体の変化は、私たちに様々な影響を与えます。身体的な不調や痛みに加え、これまで当たり前にできていたことが難しくなることへの戸惑い、将来への漠然とした不安、自信の喪失など、精神的な動揺や受け止めきれない感情が生じることがあります。
特に、自分の心の変化をパートナーに伝えることは、弱みを見せるようでためらわれたり、心配をかけたくないという思いから、一人で抱え込んでしまったりする場合があるかもしれません。しかし、このような感情は、夫婦関係にも少なからず影響を与える可能性があります。お互いの心の内を正直に分かち合い、共に支え合うことは、体の変化という大きな波を乗り越える上で非常に重要になります。
この記事では、体の変化を受け止めきれないときに生じやすい心理状態と、夫婦でどのようにそれに寄り添い、不安を乗り越えていくかについて、具体的なステップと共にご紹介します。
体の変化に伴いやすい心の動き
体の変化は、時に私たちのアイデンティティや日々の生活の基盤を揺るがします。それに伴い、様々な感情が湧き起こることがあります。
- 喪失感と自己肯定感の低下: これまで容易にできていた行動や活動が難しくなることで、「自分はもうダメなのではないか」と感じたり、自己肯定感が低下したりする場合があります。
- 将来への不安: 体の状態がこの先どうなるのか、老後や介護はどうなるのかといった、漠然とした、あるいは具体的な不安が増大することがあります。遠方の親の体調や介護の状況を目の当たりにしている場合、自分たちの将来と重ね合わせて、より不安を感じやすくなることもあります。
- パートナーや家族への申し訳なさ: 体の不調により、パートナーに負担をかけているのではないか、迷惑をかけているのではないか、といった申し訳なさや罪悪感を抱くことがあります。
- イライラや気分の落ち込み: 体の辛さが精神的な余裕を奪い、些細なことでイライラしたり、気分が落ち込んだりすることがあります。これはパートナーとの関係性にも影響を及ぼす可能性があります。
- 孤独感: これらの感情を一人で抱え込み、パートナーにうまく伝えられないことで、孤立しているように感じてしまうことがあります。
夫婦で寄り添い、不安を乗り越えるためのステップ
体の変化を受け止めきれない感情に夫婦で向き合うことは、簡単なことではないかもしれません。しかし、お互いを理解し、支え合うことで、より強くしなやかなパートナーシップを築くことが可能です。
1. まずは自分自身の気持ちに気づく
体の変化に伴う心の動きは複雑です。まずはご自身が、どのような感情を抱いているのか、何に一番不安を感じているのかに意識を向けてみましょう。言葉にできなくても構いません。漠然とした感覚でも、ご自身の内面を観察することが第一歩です。
2. パートナーに「話してみる」勇気を持つ
自分の感じている不安や辛さをパートナーに話すことは、勇気がいる行為かもしれません。「心配をかけたくない」「理解してもらえないかもしれない」という気持ちがあるのは自然なことです。しかし、抱え込んだままでは、パートナーもどうしてよいか分からず、かえってすれ違いを生む可能性があります。
完璧に説明しようとせず、まずは「最近、体の変化について、少し不安を感じている」「以前のように動けないことに、少し落ち込んでいる」など、正直な気持ちを伝えてみましょう。全てを一度に話す必要はありません。
3. パートナーの「聴く」姿勢
パートナーから体の変化に伴う不安や辛さについて話を聞く場合、最も大切なのは「聴く」姿勢です。安易な励ましや解決策の提示ではなく、まずは相手の感情を否定せず、共感的に耳を傾けましょう。「そう感じているのですね」「辛いのですね」と、相手の気持ちを受け止める言葉を伝えることが、安心感につながります。
忙しい共働き夫婦の場合、まとまった時間を取るのが難しいかもしれませんが、短い時間でも真剣に耳を傾ける姿勢を示すことが重要です。親の介護や自分たちの老後について話し合う難しさを感じている場合も、まずは目の前のパートナーの心の声に耳を傾ける練習から始めてみても良いかもしれません。
4. 共通の目標を持つ、あるいは探す
体の変化によって、これまで二人で楽しんでいた趣味や活動が難しくなることがあります。これは夫婦共通の楽しみが減るという喪失感につながる可能性があります。
このような場合、夫婦で「今後、どのようなことに時間を使い、どのように過ごしたいか」を話し合ってみましょう。体の状態に合わせて、新しい共通の趣味を見つけたり、楽しみ方を変えたりすることも可能です。例えば、アクティブな外出が難しければ、自宅で楽しめるインドアの趣味を始めたり、近隣の散策に切り替えたりするなど、柔軟な発想で新しい目標を探してみましょう。
5. 「できないこと」を受け入れ、「できること」に目を向ける
体の変化により、確かに「できなくなったこと」はあるかもしれません。それに囚われすぎると、悲観的になりがちです。パートナーと共に、「今、何ができるか」「体の状態を踏まえて、どのように工夫すれば楽しめるか」に目を向けてみましょう。
お互いが持っている力や強みを再確認し、役割分担を見直すことも有効です。親の介護における役割分担を夫婦で話し合うのと同じように、自分たちの生活の中でも、互いの得意なこと、できることを活かし合う関係性を築くことが大切です。
6. 外部の支援も検討する
体の変化やそれに伴う不安は、夫婦だけで抱え込む必要はありません。必要に応じて、専門家(医師、看護師、カウンセラーなど)に相談することも検討しましょう。公的な相談窓口や、同じような経験を持つ人が集まる自助グループなども存在します。
また、友人やきょうだいなど、信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。パートナーだけが一人で全てを背負い込まないように、周囲のサポートも視野に入れることが重要です。親の介護できょうだいとの連携に悩んだ経験がある場合、自分たちのこととしても外部との連携を考えてみましょう。
7. お互いの心身をケアする
体の変化と向き合うことは、本人だけでなく、支えるパートナーにとっても負担となる可能性があります。お互いが心身ともに健康でいられるよう、意識的に自分自身をケアする時間を作りましょう。休息を取る、趣味に時間を使う、適度な運動をするなど、ストレスを軽減する方法を見つけることが大切です。
お互いを労う言葉をかけたり、感謝の気持ちを伝え合ったりすることも、心の支え合いにつながります。
まとめ
病気や加齢による体の変化、そしてそれに伴う受け止めきれない感情は、誰にでも起こりうる自然なことです。大切なのは、一人で抱え込まず、最も身近な存在であるパートナーと正直に心の内を分かち合い、共に向き合っていくことです。
すぐに全てが解決しなくても構いません。お互いの気持ちに寄り添い、「聴く」こと、そして「話してみる」ことから始めてみてください。体の変化を受け入れ、「できないこと」がある中でも、夫婦で知恵を出し合い、「できること」に目を向け、新しい日常や楽しみ方を共に見つけていくことが、不安を乗り越え、前向きに歩んでいく力となります。
完璧を目指すのではなく、お互いを大切にしながら、一歩ずつ、共に進んでいく。それが、体の変化と向き合う夫婦にとって、何よりも強い心の支えとなるでしょう。