体の変化と向き合うカップル

親の介護と自分たちの未来:夫婦で向き合うお金の現実と計画のステップ

Tags: 介護費用, 老後資金, 夫婦の話し合い, 資金計画, 専門家相談

親の介護と自分たちの未来:夫婦で向き合うお金の現実と計画のステップ

親御様の体の変化が始まり、将来の介護について現実的に考えざるを得なくなったとき、多くの共働き世代のご夫婦が直面するのが「お金」の問題です。親御様の介護にかかる費用に加え、自分たち自身の老後の資金準備も同時に進めなければならないという状況は、大きな不安を伴います。

介護にかかる費用は漠然としていて掴みづらく、自分たちの老後資金もどこまで準備すれば良いのか見当がつかないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。こうした金銭的な不安を一人で抱え込まず、パートナーと共に具体的に向き合い、計画を立てていくことが、将来への安心感を育む上で非常に重要です。

この記事では、親御様の介護費用と自分たちの老後資金という二つの大きな課題に、ご夫婦でどのように向き合い、具体的な資金計画を立てていくか、そのステップとヒントをご紹介します。

1.お金の現実を知る:情報収集と共有から始める

漠然とした不安を具体的な行動に変える第一歩は、現状と将来にかかる費用について、できるだけ正確な情報を集めることです。そして、集めた情報を必ずパートナーと共有してください。

(1)親御様の介護にかかる費用の概算を知る

介護にかかる費用は、要介護度や利用するサービス、施設の形態(在宅介護か施設入所か)によって大きく異なります。 例えば、在宅介護であれば住宅改修費や福祉用具購入・レンタル費、ヘルパー利用料などがかかります。施設入所であれば、施設の形態(特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど)によって費用に幅があり、入居一時金や月額利用料が必要となります。

公的なデータも参考になります。例えば、生命保険文化センターの調査では、介護期間の平均や、月々にかかる費用、一時的な費用などの平均額が示されています。こうした情報を参考に、大まかなイメージを掴むことから始めましょう。

重要なのは、これらの情報はあくまで「平均」であり、個別の状況によって大きく変動するということです。親御様の現在の健康状態や、将来どのように過ごしたいかといった意向(可能な範囲で確認できれば)、利用したいサービスなどを考慮しながら、ご夫婦で「どのくらいの費用がかかりそうか」を話し合ってみてください。

(2)自分たちの老後資金の必要額を知る

親御様の介護費用と同時に考える必要があるのが、ご夫婦ご自身の老後資金です。何歳まで働き、どのような暮らしを送りたいかによって必要な資金は変わります。

総務省の家計調査などから、高齢夫婦世帯の平均的な生活費を知ることができます。これらを参考に、ご夫婦の現在の支出を把握し、将来のライフプランを踏まえて「老後、毎月どのくらいの生活費が必要になるか」「合計でどのくらいの資金が必要になりそうか」を試算してみましょう。

退職金や年金収入の見込み額も確認し、不足する金額を具体的に把握することが、今後の資金計画のスタート地点となります。

(3)情報をオープンに共有する

お金の話はセンシティブですが、ご夫婦で共通認識を持つことが何より大切です。お互いの収入、支出、保有資産(預貯金、保険、有価証券、不動産など)について、正直に話し、情報をオープンに共有してください。親御様の資産状況についても、把握できている範囲で情報を整理します。情報が不足している場合でも、現時点で分かっていることを共有するだけでも意味があります。

2.夫婦で話し合う:具体的な計画を立てるステップ

お金の現実を共有したら、いよいよ具体的な計画を立てるための話し合いを進めます。

(1)話し合いのきっかけと場の設定

「お金の話を始めたいけれど、どう切り出せば良いか分からない」と感じる方もいるかもしれません。健康診断の結果を見た後や、親御様に関するニュースを聞いた後など、自然な流れで話し合いの機会を持つのが良いでしょう。「少し真面目な話をしたいのだけど、いつ時間がある?」などと事前に声をかけ、落ち着いて話せる時間と場所を確保するのも効果的です。

(2)親御様の介護の意向と費用への影響を話し合う

親御様が将来、自宅で介護を受けたいのか、施設に入所したいのか、どのような医療を受けたいのかといった意向は、かかる費用に大きく影響します。もし可能であれば、ご夫婦で話し合った内容を整理し、親御様とも少しずつ話し合う機会を持てると理想的です。難しい場合は、ご夫婦で「もし〇〇になったら、どのような選択肢がありそうか、それぞれ費用はどのくらいかかりそうか」とシミュレーションしてみるだけでも、漠然とした不安を軽減できます。

(3)自分たちのライフプランと資金目標を設定する

親御様の介護だけでなく、ご夫婦ご自身の将来についてもしっかりと話し合います。いつまで働くか、住まいはどうするか、趣味や旅行にどのくらいお金をかけたいかなど、具体的なライフプランを描き、それに必要な資金目標を立てます。

親御様の介護費用と自分たちの老後資金、両方の目標額が見えてきたら、「年間〇〇円を貯蓄に回そう」「資産運用で〇〇円を目指そう」といった具体的な計画に落とし込んでいきます。

(4)意見の相違を乗り越える

お金に関する価値観は、育った環境や経験によって異なる場合があります。意見がぶつかったとしても、感情的にならず、「なぜそう考えるのか」をお互いに丁寧に伝え合い、耳を傾ける姿勢が重要です。すぐに結論が出なくても、定期的に話し合いを続けることで、少しずつ共通の理解と落としどころを見つけていくことができます。これは、金銭面だけでなく、他の体の変化に伴う課題を夫婦で乗り越える上でも大切なスキルとなります。

3.具体的な対策を進める:制度活用と専門家相談

話し合いを通じて大まかな計画が見えてきたら、具体的な対策を進めます。

(1)利用できる公的制度を知る

介護保険サービスの利用、医療費控除、高額介護サービス費制度、高額療養費制度など、介護や医療に関する費用負担を軽減する公的制度があります。これらの制度について学び、活用することで、費用負担を抑えることができます。地域包括支援センターや市区町村の窓口に相談してみるのも良いでしょう。

(2)自分たちの家計を見直し、資産運用を検討する

介護や老後に備えるためには、現在の家計を見直し、無駄な支出を削減することも有効です。また、預貯金だけでなく、NISAやつみたてNISA、iDeCoなどを活用した資産運用も、長期的な視点での資産形成に有効な手段となり得ます。リスクを理解した上で、ご夫婦で話し合い、家計の状況に合わせて検討してみましょう。

(3)親御様の資産活用や相続も視野に入れる

親御様に資産がある場合、その活用も介護費用の一助となる可能性があります。リバースモーゲージやリースバックといった方法も考えられますが、これらは専門的な知識が必要です。また、将来的な相続についても、早めに話し合いや準備を始めることで、いざという時の負担を軽減できます。これらのデリケートな問題については、必要に応じて弁護士や税理士、司法書士などの専門家に相談することを検討してください。

(4)専門家への相談を検討する

お金の問題は複雑であり、ご夫婦だけで全てを解決しようとせず、必要に応じて専門家の力を借りることも重要です。ファイナンシャルプランナー(FP)にライフプラン全体の資金計画について相談したり、ケアマネジャーや地域包括支援センターに介護サービスや制度について相談したりすることで、より具体的で現実的なアドバイスを得られます。

まとめ:共に向き合うことで不安を力に

親御様の介護費用と自分たちの老後資金という、二つの大きな経済的課題。これに正面から向き合い、ご夫婦で情報を共有し、話し合い、具体的な計画を立てるプロセスは、決して容易ではないかもしれません。不安や意見の対立が生じることもあるでしょう。

しかし、このプロセスを通じて、ご夫婦はお互いの価値観や将来への考え方をより深く理解し、困難を共に乗り越えていくための信頼関係を一層強固にすることができます。漠然としたお金の不安は、具体的な数字と計画、そしてパートナーとの協力によって、将来を共に築いていくための力へと変わるはずです。

すぐに完璧な計画が立てられなくても構いません。まずは、ご夫婦でこの問題について話し合う機会を持つこと、そして、少しずつでも情報を集め、共有することから始めてみてください。お二人のペースで、一歩ずつ進んでいくことが大切です。