親の体の変化で生まれる夫婦の「言えない気持ち」:本音を共有し、乗り越えるには
親御さんの体の変化や介護は、ご夫婦にとって大きな出来事です。情報収集や具体的な手続き、介護サービスのことなど、やるべきことがたくさんあります。その一方で、この変化はご夫婦それぞれの心にも影響を与え、知らず知らずのうちに「言えない気持ち」を抱えてしまうことがあります。責任感、パートナーへの遠慮、自身の限界といった感情が、ご夫婦の関係に微妙な影を落とすこともあるでしょう。
この記事では、親御さんの体の変化をきっかけに夫婦が抱えがちな「言えない気持ち」に焦点を当て、その背景にあるもの、そしてパートナーと本音を共有し、共にこの時期を乗り越えるための具体的な話し合いのヒントをお伝えします。
親の体の変化に伴い、夫婦が「言えない気持ち」を抱える背景
なぜ、私たちは親しいはずのパートナーに対して、自分の気持ちを「言えない」と感じてしまうのでしょうか。親御さんの体の変化や介護という状況では、以下のような様々な要因が絡み合います。
- 親への責任感と罪悪感: 「親のことは自分がしっかりやらなければ」「もっと何かできたのではないか」といった強い責任感から、自身の負担や不安をパートナーに打ち明けることに罪悪感を感じる場合があります。
- パートナーへの遠慮や配慮: 共働きで忙しいパートナーにこれ以上の負担をかけたくない、心配をかけたくない、あるいはパートナーが既に十分大変だと感じているため、自分の本音を飲み込んでしまうことがあります。
- 自身の弱さや限界を認めたくない: 体力的・精神的な疲労や限界を感じていても、「自分が頑張ればなんとかなる」と無理を重ね、パートナーに助けを求めることや弱音を吐くことをためらう場合があります。
- 何をどう伝えればいいか分からない: 漠然とした不安や疲労感を、具体的な言葉にしてパートナーに伝えることが難しいと感じることがあります。感情がこじれてしまい、うまく伝えられないのではないかという懸念もあります。
- パートナーとの価値観や考え方の違い: 親御さんへの関わり方、介護に対する考え方、お金の使い方などについて、パートナーと意見が違うと感じ、摩擦を恐れて本音を言わない選択をすることもあります。特に遠方に住む親御さんの場合、状況の把握や協力体制の構築において、物理的な距離が心理的な距離を生むこともあります。
「言えない気持ち」が夫婦関係に与える影響
抱え込んだ「言えない気持ち」は、表には見えなくてもご夫婦の関係に少しずつ影響を与えます。
- すれ違いと誤解: 本音を共有しないことで、パートナーはあなたが抱えている本当の負担や感情を理解できません。「分かってくれない」という不満と、「伝えても無駄だ」という諦めが生まれ、すれ違いが生じやすくなります。
- コミュニケーションの減少: 心の中に秘めたことがあると、自然とパートナーとの会話が減ったり、当たり障りのない会話が増えたりします。必要な情報共有さえも滞ることがあります。
- 夫婦間のストレス蓄積: 一人で抱え込むことで、ストレスや疲労は増大します。そのストレスが、些細なことでイライラする、無気力になるなど、パートナーへの態度に表れ、関係をぎくしゃくさせることがあります。
- 孤独感: 最も身近なはずのパートナーにすら本音を話せないと感じることは、深い孤独感につながります。共に乗り越えるべき課題であるにも関わらず、一人で戦っているような感覚に陥ることがあります。
「言えない気持ち」を共有するための話し合いのヒント
抱え込んだ気持ちをご夫婦で共有することは、すれ違いを防ぎ、困難な状況を共に乗り越える力を生み出すために非常に重要です。ここでは、そのための具体的なステップと話し合いのヒントをご紹介します。
ステップ1:自分の気持ちを整理する
まず、ご自身の心と向き合う時間を取りましょう。「何に困っているのか」「具体的にどんなサポートが必要か」「どんな気持ちを感じているのか(不安、疲労、不満、罪悪感など)」を、紙に書き出すなどして整理してみてください。この段階では、パートナーにどう伝えるかは考えず、純粋な自分の内面に焦点を当てます。親御さんの体の変化だけでなく、それがご自身の仕事や体調(更年期など)、夫婦の将来(老後資金や自分たちの体の変化)にどう影響していると感じるかなども含めて考えてみましょう。
ステップ2:パートナーに話す機会を作る
お互いが落ち着いて話せる時間と場所を選びましょう。忙しい日々の中でまとまった時間を作るのは難しいかもしれませんが、例えば休日の午前中や、一緒に食事をする時間など、意識的に話し合いのための時間として確保することが大切です。深刻な雰囲気になりすぎず、「少し話したいことがあるんだけど」と、穏やかに切り出すのが良いでしょう。
ステップ3:具体的な伝え方のヒント
いざ話すときには、いくつかのポイントを意識すると、感情的にならずに本音を伝えやすくなります。
- 「私(I)」を主語にする: 非難するような「あなたは〜してくれない」ではなく、「私は〜だと感じている」「私は〜に困っている」のように、自分の感情や状況を主語にして伝えます。
- 具体的な状況を伝える: 抽象的な「疲れた」「大変」だけでなく、「〇〇(親御さんの状況)があって、その対応で今日は△時間かかった」「□□(具体的なサポート内容)をするのが、今の私には少し負担に感じている」のように、具体的な状況を伝えることで、パートナーは状況を理解しやすくなります。
- 感謝の気持ちを伝える: パートナーがこれまでに協力してくれたことや、日頃のサポートに対する感謝の気持ちを伝えます。「いつもありがとう」「〇〇してくれて助かっているよ」といった言葉を添えることで、話し合いの雰囲気は和らぎ、協力的な関係性を築きやすくなります。
- 助けを求めることをためらわない: 全てを一人で抱え込まず、「正直、一人で抱えるのは難しいと感じている」「〜について、一緒に考えてもらえないか」のように、具体的な助けを求める姿勢を見せることも大切です。
ステップ4:パートナーの話を聞く姿勢
あなたが話すだけでなく、パートナーの気持ちや考えを聞くことも非常に重要です。パートナーもまた、あなたには言えない悩みや負担、親御さんやご自身の体の変化に対する不安を抱えている可能性があります。
- 傾聴に徹する: パートナーが話している間は、口を挟まず、まずは最後まで話を聞きましょう。相槌を打つなどして、「ちゃんと聞いているよ」という姿勢を示すことが大切です。
- 理解しようと努める: パートナーの意見や感情に同意できなくても、「なぜそう感じるのだろう」「どういう状況なのだろう」と、理解しようと努める姿勢が重要です。全ての意見が一致しなくても、お互いの考えを尊重することが、信頼関係を深めることにつながります。
共有から生まれる協力体制と未来への備え
「言えない気持ち」を共有し、本音で話し合える関係性が築けると、困難な状況を乗り越えるための具体的な協力体制を築きやすくなります。
- 情報共有の仕組み作り: 親御さんの体調や介護に関する情報、医療機関や介護サービスに関する情報などを、ご夫婦で常に共有できる仕組み(共有ノート、アプリなど)を作ることを検討しましょう。
- 役割分担の話し合い: 誰が何を担当するか、具体的な役割分担について話し合います。全てを完璧に行うことは難しいため、外部サービス(地域の相談窓口やケアマネジャーなど)の活用も含めて検討し、無理のない範囲で分担することが大切です。特に遠方の親御さんの場合、地域のサポート体制や見守りサービスなどを夫婦で情報収集し、検討を進めることが有効です。
- 夫婦の時間も大切に: 親御さんのサポートに追われる日々でも、ご夫婦二人でリラックスしたり、楽しい時間を過ごしたりする時間を意識的に作りましょう。これは、お互いのストレスを軽減し、関係性を良好に保つために非常に重要です。
- 自分たちの未来を共に考える: 親御さんの体の変化や介護を経験することは、ご夫婦自身の老後や体の変化について考えるきっかけにもなります。自分たちの健康状態、老後資金、将来の住まいなどについても、この機会にパートナーとオープンに話し合いを始めてみましょう。不安を共有し、共に備えることで、精神的な安定にもつながります。
まとめ:本音で話し合える関係性が、困難を乗り越える力になる
親御さんの体の変化や介護は、ご夫婦にとって試練となる時期かもしれません。しかし、そこで生まれる「言えない気持ち」を互いに共有し、本音で話し合える関係性を築くことは、この困難な状況を共に乗り越えるための最も力強い支えとなります。
完璧を目指す必要はありません。感情的になってしまう時もあるでしょう。大切なのは、お互いを思いやり、歩み寄り、共に解決策を見つけようとする姿勢です。親御さんのサポートだけでなく、ご夫婦自身の体や将来の変化にも、本音で向き合える関係性を基盤として、共に歩んでいかれることを願っています。