自分たちの「終活」を夫婦で考える:体の変化を見据えた話し合いの始め方と大切なこと
自分たちの「終活」を夫婦で考える:体の変化を見据えた話し合いの始め方と大切なこと
40代後半から50代に入り、親御さんの体の変化や介護に関わる機会が増えると、同時にご自身の体の変化を感じたり、将来への不安を漠然と抱えたりすることも少なくないでしょう。そうした中で、「自分たちのこれから」について、具体的に考え始める方もいらっしゃるかもしれません。
「終活」と聞くと、少し早いと感じる方もいるかもしれませんし、終わりを意識することに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここで言う「終活」は、単に人生の幕引きに向けた準備だけを指すのではなく、これからの人生をより自分たちらしく、安心して生きていくために、ご夫婦で話し合い、考えを整理していくプロセスと言えます。特に、体の変化が避けられない将来を見据えるとき、パートナーと共にこのプロセスを進めることは、非常に大きな意味を持ちます。
なぜ今、夫婦で「自分たちの終活」を考えるのか?
1. 親の介護経験から学ぶこと
親御さんの介護を通じて、準備や情報共有がいかに大切かを痛感した方もいらっしゃるでしょう。また、いざという時にご夫婦でどのように協力し、役割分担していくか、事前に話し合っておくことの重要性も実感されているかもしれません。この経験は、「自分たちのこと」を考える上での貴重な学びとなります。
2. 自分たちの体の変化を見据えた備え
加齢による体力や健康状態の変化は避けられません。今は問題なくても、数年後、数十年後にどのようなサポートが必要になるかは予測できません。将来、もしご自身やパートナーの体に変化があった際に、お互いがどのように助け合い、どのような医療や介護を希望するのか、共有しておくことで、いざという時に慌てず、お互いの意思を尊重した行動が取れるようになります。
3. 「もしも」の時に、パートナーが困らないために
万が一、どちらか一方に何かあった場合、残されたパートナーが一人で全ての手続きや判断を担うのは大きな負担となります。財産のこと、加入している保険のこと、延命治療の希望、さらには葬儀やお墓のことまで、事前に情報を共有し、お互いの希望を把握しておくことで、パートナーの負担を軽減し、混乱を避けることができます。
4. 残りの人生をどう生きたいか、お互いの価値観を共有する機会として
終活は、過去の整理であると同時に、これからの人生をどのように過ごしたいかをご夫婦で語り合う機会でもあります。体の変化があっても続けたい趣味や、挑戦したいこと、夫婦で大切にしたい時間など、お互いの希望や価値観を共有することで、二人のこれからの人生を共にデザインしていくことができます。
夫婦で話し合う「終活」の具体的なステップとテーマ
では、具体的に何から話し始めれば良いのでしょうか。いきなり全てのことを話し合うのは難しいかもしれません。まずは、お互いが関心のあることや、比較的話しやすいテーマから始めてみるのが良いでしょう。
1. 何から話し始めるか
- 話し合いの場の設定: 改まって「終活について話そう」と切り出すのではなく、日頃の会話の中で、親御さんのことや友人知人の話題から自然な流れで触れてみるのも良いでしょう。例えば、「〇〇さんのところは、お父様の介護でこういうことが大変だったらしいね。私たちも、もし将来何かあったらどうするかな」のように、共感を呼び起こす形で投げかけてみるのも一つの方法です。
- 気軽なテーマから: 全てのテーマを一度に話し合う必要はありません。まずは、旅行や趣味など、これからの人生で何をしたいか、といったポジティブなテーマから始めて、徐々に将来の健康やお金、介護といった少し重いテーマへと進めていくのも有効です。
2. 話し合うべきテーマの例
ご夫婦で話し合うべきテーマは多岐にわたりますが、以下のような項目を参考にしてみてください。
- 健康・医療: かかりつけ医、病歴、アレルギー、現在服用している薬、延命治療に関する希望(どこまで医療行為を望むか)、臓器提供の意思表示など。
- 介護: 将来介護が必要になった場合、どこでどのような介護を受けたいか(自宅、施設など)、パートナーにどこまで負担をかけたいか、利用したいサービスの種類など。
- 財産・相続: 預貯金、不動産、有価証券などの財産状況、誰に何を相続させたいか、遺言書の作成についてなど。
- 住まい: 今の家に住み続けたいか、リフォームを検討するか、将来的に住み替えや施設入所を検討するかなど。
- 葬儀・お墓: 葬儀の形式(家族葬、一般葬など)、希望するお墓(代々のお墓、永代供養墓、散骨など)、希望する費用など。
- デジタル遺産: パソコンやスマートフォンのパスワード、SNSアカウントの扱い、ネット銀行やネット証券の情報など。
- 伝えたいこと: パートナーや家族への感謝の気持ち、残りの人生でやりたいこと、大切にしている価値観など。
これらの情報を整理するために、「エンディングノート」などのツールを活用するのも効果的です。書店やインターネットで様々な種類のエンディングノートが販売されていますし、無料のテンプレートなども利用できます。エンディングノートは法的な効力はありませんが、ご自身の意思や希望を整理し、パートナーと共有するための有効な手段となります。
3. 専門家への相談検討
財産や相続、法的な手続きなど、専門的な知識が必要となるテーマについては、ファイナンシャルプランナー、弁護士、司法書士、税理士、あるいは医療や介護に関する相談窓口などに相談することも検討しましょう。夫婦だけで抱え込まず、必要に応じて専門家のサポートを得ることも大切です。
夫婦での話し合いを円滑に進めるには
終活に関する話し合いは、時にデリケートな側面も含みます。パートナーシップを良好に保ちながら進めるためには、いくつかの点に配慮が必要です。
- お互いのペースを尊重する: 終活への向き合い方や、話したい内容、タイミングは、ご夫婦でも異なる場合があります。一方的に押し付けたり、急かしたりせず、お互いの気持ちやペースを尊重することが大切です。
- 感情的にならず、冷静に意見を伝え合う: 難しいテーマに触れると、感情的になってしまったり、意見が対立したりすることもあるかもしれません。しかし、あくまでもお互いを理解し、将来に向けて協力するための話し合いであることを忘れずに、冷静に、そして正直に気持ちや考えを伝え合いましょう。
- 完璧を目指さず、少しずつ進める: 一度に全てを決めようとせず、「今日は健康について話そう」「来週はお金の話を少しだけ」のように、テーマを絞って少しずつ進める意識を持つことが継続の秘訣です。考えは変化していくものですから、一度話した内容も、定期的に見直したり、更新したりすることが重要です。
- 日頃からのコミュニケーションが基盤となる: 終活に関する話し合いは、日頃のご夫婦のコミュニケーションの延長線上にあります。普段から何でも話し合える関係性を築けていると、このようなデリケートなテーマについても、比較的スムーズに話し合いを進めやすくなります。
まとめ:終活は、夫婦で「これから」をデザインするプロセス
自分たちの「終活」を夫婦で考えることは、避けられない体の変化や将来への不安に対して、お互いを支え合い、共に備えるための大切なプロセスです。それは、人生の「終わり」に向けた準備であると同時に、これからの日々をどのように大切に生きていくか、ご夫婦で共に考え、希望を共有し、絆を深めていく「これから」をデザインする時間でもあります。
一度の話し合いで全てが解決するわけではありません。夫婦の形や価値観は変化していくものですから、折に触れてお互いの気持ちや考えを確認し合い、情報を更新していくことが大切です。
もし、まだ一歩を踏み出せていないという方がいらっしゃいましたら、まずはこの記事で触れたテーマの中から、話しやすそうなものを選んで、パートナーにそっと提案してみてはいかがでしょうか。お二人で向き合うことで、きっと未来への安心感を育んでいけるはずです。