親の介護が夫婦の働き方を変えるとき:キャリア継続と両立を話し合うステップ
はじめに
親御様の体の変化が進み、介護が必要な状態になると、離れて暮らしている方や近くに住んでいる方に関わらず、日々の生活に様々な影響が出てきます。特に、共働きのご夫婦にとっては、仕事と介護の両立が大きな課題となることがあります。親御様へのサポートに時間や体力、精神力を費やすことで、これまで通りの働き方を続けることが難しくなったり、キャリアについて考え直す必要が出てきたりするかもしれません。
このような状況に直面したとき、「どちらかが仕事を辞めるべきか」「どうすれば両立できるのか」といった不安や疑問が生まれるのは自然なことです。そして、これらの問題は、ご夫婦お二人で向き合い、話し合い、共に乗り越えていくことが不可欠となります。
この記事では、親御様の介護が夫婦それぞれの働き方やキャリアにどのような影響を与える可能性があるのか、そして、その変化にどう向き合い、どのように話し合いを進めていけば良いのかについて、ステップを踏んで解説します。
親の介護が夫婦それぞれの働き方に与える影響
親御様の介護が必要になると、具体的にどのような点でご夫婦の働き方に影響が出やすいのでしょうか。考えられる主な影響をいくつかご紹介します。
- 時間的な制約:
- 親御様の病院への付き添いや、自宅での介護時間が増えることで、早退や遅刻、急な休暇が必要になることがあります。
- 介護サービスの利用調整や、介護施設の検討などで、日中の仕事時間外に連絡や手続きに追われることもあります。
- 遠方に住む親御様の場合、急な呼び出しや見舞いのための移動時間が大きな負担となります。
- 精神的・体力的な負担:
- 介護に伴う身体的な疲労に加え、親御様の健康状態や将来への不安、仕事と介護の板挟みになるストレスなどから、精神的な負担が増加し、仕事への集中力が低下することがあります。
- 収入への影響:
- 介護のために時短勤務や部署異動を選んだり、休職や退職を余儀なくされたりする場合、収入が減少する可能性があります。
- 介護費用そのものに加え、交通費や雑費なども家計を圧迫する要因となり得ます。
- キャリアへの影響:
- 昇進や異動の機会を諦めざるを得なくなったり、希望するキャリアパスから外れることになったりする場合があります。
- 介護期間が長期にわたる場合、その後のキャリア形成に影響が及ぶ可能性もゼロではありません。
これらの影響は、ご夫婦のどちらか一方に偏って現れることもあれば、お二人それぞれに異なる形で現れることもあります。重要なのは、これらの変化はご夫婦共通の課題として捉え、一人で抱え込まないことです。
夫婦で話し合うべき論点
親御様の介護とご夫婦それぞれの働き方やキャリアについて話し合う際には、感情的にならず、具体的な情報を共有し、現状と将来について冷静に整理することが大切です。話し合いのテーマとなりうる論点をいくつか挙げてみましょう。
- 親御様の現状と必要なサポートの共有:
- 親御様の現在の健康状態や生活状況、必要な介護レベルについて、ご夫婦で情報を共有します。医師やケアマネジャーからの情報、親御様やそのパートナー(いらっしゃる場合)からの話などを基に、具体的な状況を把握することが第一歩です。
- どのようなサポートがどのくらいの頻度で必要か、具体的な内容を整理します(例:食事の準備、入浴介助、通院付き添い、服薬管理、金銭管理など)。
- 夫婦それぞれの仕事の状況と意向の確認:
- ご自身の仕事内容、責任、勤務時間、会社の育児・介護休業制度や時短勤務制度、フレックスタイム制度などの活用可能性について、パートナーに具体的に伝えます。
- パートナーの仕事についても同様に情報交換を行います。
- 今後、仕事やキャリアについて、ご自身がどのようにしていきたいか(例:続けたい、ペースを落としたい、一時的に休みたい、可能な範囲で責任のある仕事をしたいなど)、正直な気持ちや希望を伝えます。パートナーのキャリアに対する意向も丁寧に聞き取ります。
- 今後の介護の方針と役割分担の検討:
- 誰が中心となって親御様のサポートを行うのか、具体的な役割分担について話し合います。どちらか一方に過度な負担が集中しないよう、お互いの仕事の状況や得意不得意、地理的な条件などを考慮して、現実的な分担を考えます。
- 利用できる介護保険サービスや地域の支援サービス、民間のサービスなどを活用する可能性についても話し合います。サービスの利用によって、ご夫婦の負担をどの程度軽減できるか、費用はどのくらいかかるかなどを検討します。
- 親御様のご自宅の改修や、将来的な施設入所なども選択肢として視野に入れる必要があるか、ご夫婦で情報収集し、話し合いを始めます。
- 働き方の変更の可能性と収入への影響:
- 介護の状況に合わせて、ご夫婦どちらか、あるいは両方が働き方を変える必要があるか検討します(例:時短勤務、フレックスタイム、在宅勤務、休職、退職など)。
- 働き方を変えることによる収入への影響を試算し、家計全体をどう見直すかについても話し合います。貯蓄の状況、利用できる公的な支援(傷病手当金、介護休業給付金など)についても情報を集めます。
- お互いの精神的・感情的な負担の共有:
- 仕事と介護の両立に伴うストレス、不安、疲労、キャリアに対する葛藤など、ご自身が感じている感情をパートナーに伝えます。
- パートナーが感じていることも丁寧に聞き取ります。一人で抱え込まず、お互いの気持ちを共有し、理解し合うことが、ご夫婦で支え合う上での重要な土台となります。
これらの論点について一度に全て結論を出す必要はありません。まずは情報共有から始め、定期的に話し合いの機会を持ち、状況の変化に合わせて柔軟に見直していくことが大切です。
効果的な話し合いを進めるために
忙しい日々の中で、落ち着いて夫婦で話し合う時間を持つこと自体が難しいと感じるかもしれません。しかし、ここで避けて通ってしまうと、後々の負担が増えたり、ご夫婦間の溝が深まったりする可能性もあります。効果的な話し合いを進めるためのヒントをご紹介します。
- 話し合いの場と時間を確保する:
- お互いに疲れすぎていない時間帯を選び、静かで落ち着いて話せる場所を確保します。食事の後や週末のリラックスできる時間など、工夫して二人だけの時間を作ります。
- 事前に「この件について話したい」と伝えるなど、議題を共有しておくと、スムーズに話し合いに入りやすくなります。
- 感情的にならず、事実や気持ちを伝える:
- 「あなたはいつも〜しない」といった非難するような言い方ではなく、「〜という状況で、私はこう感じている」というように、「私」を主語にして、自分の気持ちや状況を具体的に伝えます。
- パートナーの話を遮らず、まずは相手の言葉に耳を傾け、相手が何を考え、感じているのかを理解しようと努めます。
- 完璧を目指さず、柔軟な視点を持つ:
- 介護と仕事の両立に「完璧な正解」はありません。無理のない範囲で、できることから始めるという視点が大切です。
- 最初に決めた役割分担や方針がうまくいかない場合は、遠慮なくパートナーに相談し、見直しを検討します。状況は常に変化しますので、柔軟に対応していく姿勢が求められます。
- 外部のサポートや情報を活用する:
- 夫婦だけで抱え込まず、地域包括支援センター、ケアマネジャー、社会福祉協議会などの専門機関に相談します。利用できる公的なサービスや支援制度についてのアドバイスが得られます。
- 職場の産業医や人事担当者、同僚に相談することで、会社の制度活用や、働き方についてのヒントを得られる場合もあります。
パートナーシップを維持するために
親御様の介護は、ご夫婦の関係性にも影響を与えることがあります。介護の負担が増えるにつれて、お互いに心身の余裕がなくなり、すれ違いが生じたり、感謝の気持ちを伝え合うことが難しくなったりすることもあるかもしれません。このようなときこそ、意図的にパートナーシップをケアすることが重要になります。
- お互いの努力を認め、労う:
- 日々の小さなことでも、パートナーが頑張っていること、協力してくれていることを見つけ、「ありがとう」「助かっているよ」といった感謝や労いの言葉を具体的に伝えます。
- 負担が一方に偏っていないか定期的に確認する:
- 話し合いを通じて決めた役割分担が、実際に行ってみて、どちらか一方に過度な負担がかかっていないか、定期的に振り返ります。必要に応じて、役割分担や働き方を見直します。
- 二人だけの時間も大切にする:
- たとえ短時間でも、介護や仕事から離れて、ご夫婦だけでリラックスしたり、共通の趣味を楽しんだりする時間を持つことが、お互いの心身の健康を保ち、関係性を良好に維持するために重要です。
まとめ
親御様の介護が始まった共働きのご夫婦にとって、働き方やキャリアの継続は避けて通れない重要な課題です。この課題を一人で抱え込むのではなく、パートナーと情報を共有し、現状を正確に把握し、今後のことについて粘り強く話し合うことが、共に乗り越えていくための第一歩となります。
介護と仕事の両立は簡単なことではありませんが、夫婦で協力し、利用できる様々な支援を活用することで、道は開けます。完璧を目指さず、お互いを思いやりながら、状況の変化に応じて柔軟に対応していく姿勢が大切です。この記事が、ご夫婦でキャリアと介護の両立について話し合いを始めるきっかけとなれば幸いです。