親の認知症の兆候に気づいたら:夫婦で向き合う初期対応と話し合いのヒント
親の認知症の兆候に気づいたら:夫婦で向き合う初期対応と話し合いのヒント
ご自身の親御さんやパートナーの親御さんのご年齢を重ねるにつれて、体の変化と同様に気になるのが、もの忘れや判断力の変化といった認知機能の衰えかもしれません。特に遠方に住む親御さんの場合、時折の電話や短い帰省では気づきにくい変化がある可能性も考えられます。もし、親御さんの認知症かもしれない、と感じる兆候に気づいた時、どのように受け止め、パートナーとどう向き合い、行動に移していくべきでしょうか。この変化に夫婦でどう対応していくかは、その後の親御さんの生活はもちろん、ご夫婦の関係性や将来にも大きく関わってきます。
認知症の主な兆候を知る
認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ症状の現れ方や進行速度は異なりますが、一般的に見られる初期の兆候には以下のようなものがあります。
- もの忘れの増加: ついさっきの出来事を忘れる、同じことを何度も尋ねるなど。加齢によるもの忘れとは異なり、体験そのものを忘れてしまう傾向があります。
- 判断力・理解力の低下: 季節に合わない服装をする、計算ができなくなる、これまでできていた家事や買い物が難しくなるなど。
- 場所や時間の感覚の混乱: 今いる場所や日付、時間などが分からなくなる。
- 意欲や関心の低下: 趣味や活動への関心が薄れる、身だしなみを気にしなくなるなど。
- 人格や行動の変化: 穏やかだった人が怒りっぽくなる、疑い深くなるなど。
こうした兆候は、疲労や別の病気が原因である可能性もありますし、誰にでも起こりうる変化の場合もあります。しかし、複数の兆候が見られたり、以前と比べて明らかに変化があったりする場合は、注意深く見守ることが大切です。
兆候に気づいたら:夫婦で情報を共有する第一歩
親御さんの変化に気づいたとき、まず大切なのはパートナーと情報を共有することです。もしかしたら、パートナーも同じように感じているかもしれませんし、あなたとは異なる視点や気づきを持っているかもしれません。
- 具体的な情報を共有する: 「最近、電話で同じ話を何度も繰り返す」「部屋の片付けができなくなってきたようだ」「以前より疑り深くなった気がする」など、具体的にどのような状況を見て(聞いて)変化を感じたのかを伝えましょう。曖
- 感情に寄り添う: 変化に気づくことは、少なからずショックや不安を伴います。「もしかして」という気持ちを、パートナーと率直に共有し、お互いの感情に寄り添う姿勢が大切です。
- 観察を続ける: 一度きりの出来事か、継続的な変化かを見極めるために、夫婦で協力して親御さんの様子を注意深く観察し、気づいたことをメモしておくと良いでしょう。これは、後で専門機関に相談する際にも役立ちます。
この段階では、すぐに「認知症だ」と決めつけたり、親御さんを問い詰めたりすることは避け、あくまで夫婦間で情報を共有し、共通認識を持つことに注力してください。
初期対応として考えるべきこと、夫婦で協力できること
夫婦で兆候についての共通認識を持てたら、次に初期対応として何を考えるべきか、そしてどのように協力できるかを話し合いましょう。
- 専門機関への相談: 心配な場合は、まずは地域包括支援センターや、かかりつけ医に相談することをおすすめします。地域包括支援センターは、高齢者の生活全般に関する総合相談窓口であり、専門家が適切なアドバイスや情報提供をしてくれます。医療機関を受診する場合は、事前に電話で相談し、受診時の注意点などを確認すると良いでしょう。
- 受診への促し方: 親御さんに受診を勧めるのは、非常にデリケートな問題です。頭ごなしに「病院に行こう」と勧めるのではなく、「最近健康診断を受けていないから、一度ちゃんと診てもらいましょう」「ちょっと疲れ気味みたいだから、先生に相談してみたら」など、親御さんが受け入れやすい言葉を選ぶ工夫が必要です。夫婦で役割分担し、どちらが、どのようなタイミングで話すかを相談すると良いでしょう。
- 利用できる制度やサービスの情報収集: 認知症と診断された場合、あるいは診断が出ていなくても生活に不安がある場合、利用できる公的なサービスや民間のサービスがあります。介護保険制度、成年後見制度、地域の見守りサービスなど、情報収集を始めましょう。地域包括支援センターや自治体の窓口で相談できます。情報収集は分担することも可能です。
遠方に住む親御さんの場合、これらの手続きやサポートはさらに難しさが増します。誰が情報収集をするか、誰が親御さんの元へ出向くか、親御さんの近くに住む兄弟姉妹がいる場合はどのように連携するかなど、夫婦で具体的に役割分担を話し合うことが重要です。
親や他の家族への伝え方、話し合いのヒント
夫婦間で情報を共有し、対応を検討する一方で、親御さん自身や、他の兄弟姉妹がいる場合は彼らへの伝え方も重要です。
- 親御さんへの配慮: 親御さんに病名を告知するかどうかは、医師と相談しながら慎重に判断する必要があります。告知する場合も、親御さんの気持ちに寄り添い、安心感を与えるような伝え方を心がけましょう。夫婦で事前にどのような言葉で伝えるか、誰がどのようにサポートするかを話し合っておくと安心です。
- 兄弟姉妹との連携: 他に兄弟姉妹がいる場合、状況の共有と今後の協力について話し合いが必要です。しかし、兄弟姉妹間でも親御さんへの認識や関わり方には温度差があることも少なくありません。感情的にならず、事実に基づいた情報共有を心がけ、協力できる点から役割分担を提案するなど、冷静かつ建設的に話し合いを進める工夫が求められます。ここでも、夫婦で話し合いの戦略を立て、パートナーと協力して臨むことが有効です。どちらかが主に情報共有や調整を担当する、話し合いの場に夫婦で同席するなど、様々な方法が考えられます。
- 夫婦間の話し合いの難しさに向き合う: 介護の問題は、夫婦間でも意見の対立や負担感から衝突が生じやすいテーマです。話し合いが難しく感じられるときは、一度冷静になり、お互いの気持ちや不安を正直に伝え合う時間を持ちましょう。外部の専門家(ケアマネジャーなど)を交えて話し合うことも有効な場合があります。また、親御さんのことだけでなく、自分たちの仕事や生活、そして将来についても見据えながら、現実的に何ができるのか、夫婦で一緒に考えていく姿勢が不可欠です。
まとめ:焦らず、夫婦で支え合いながら
親御さんの認知症の兆候に気づいたとき、多くの不安や動揺を感じるのは自然なことです。しかし、焦って一人で抱え込んだり、パートナーと情報や感情を共有せずに対応を進めたりすることは、かえって事態を複雑にする可能性があります。
まずは夫婦でしっかりと向き合い、観察から始めた情報を共有し、お互いの気持ちに寄り添うこと。そして、地域包括支援センターのような専門機関に相談し、利用できる情報やサービスを知ることから始めてください。親御さんの状況は刻一刻と変化する可能性がありますが、夫婦で支え合い、協力しながら一歩ずつ進んでいくことが、この大きな変化を乗り越えるための力となります。これは親御さんのためだけでなく、ご夫婦自身が今後の人生を共に歩んでいく上でも、非常に大切なプロセスとなるでしょう。