親の転倒リスクに備える:夫婦で始める自宅の安全点検と緊急時の話し合い
親の転倒リスクに備える:夫婦で始める自宅の安全点検と緊急時の話し合い
親御様の体の変化を感じ始めた頃、遠方で暮らしている場合は特に、「自宅で転んでしまったらどうしよう」という不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。加齢とともに体の機能は変化し、バランス能力の低下や筋力の衰えなどから、転倒のリスクは高まると言われています。
もし親御様が転倒し、骨折などをすると、入院やリハビリが必要になることもあり、その後の生活に大きな影響を与える可能性があります。また、離れて暮らすお子さんや、近くで支える親御様のパートナーにも、精神的・物理的な負担が生じます。
こうした状況を未然に防ぐため、あるいは万が一の際に冷静に対応できるよう、ご夫婦で親御様の「転倒リスク」について話し合い、備えを進めることは非常に重要です。本記事では、親御様の転倒リスクに備えるために、ご夫婦でできること、そして具体的な話し合いのポイントをご紹介します。
なぜ高齢者は転倒しやすいのか
加齢に伴い、以下のような要因が転倒リスクを高めると考えられています。
- 身体機能の変化: 筋力やバランス能力の低下、視力や聴力の衰え、反射神経の鈍化など。
- 病気や薬の影響: 脳血管疾患の後遺症、パーキンソン病、骨粗しょう症などの病気や、血圧を下げる薬、睡眠薬などの副作用によって、ふらつきやめまいが生じやすくなることがあります。
- 住環境: 段差が多い、滑りやすい床、手すりがない、照明が暗いといった自宅環境も転倒の大きな原因となります。
- 生活習慣: 運動不足や栄養不足なども筋力低下につながり、転倒リスクを高めます。
これらの要因が複合的に重なることで、些細なきっかけでも転倒につながってしまうことがあります。
夫婦で始める親御様宅の安全点検
親御様が遠方に暮らしている場合でも、帰省時などを利用して、ご夫婦で一緒に自宅の安全点検を行ってみましょう。どのような点に注意すれば良いか、以下に具体的に挙げます。
- 玄関・廊下:
- 上がり框(あがりかまち)の段差は高すぎないか
- 滑りやすいマットは敷いていないか
- 手すりは設置されているか(特に上り下りする場所)
- 十分な明るさが確保されているか
- 床に物(新聞、スリッパなど)が散乱していないか
- リビング・居室:
- 家具の配置で通り道が狭くなっていないか
- 敷物(ラグ、カーペット)の端がめくれていないか、滑り止めはついているか
- コード類が床を這っていないか
- 座り慣れた椅子やソファは立ち上がりやすい高さか
- 照明は十分明るいか
- キッチン:
- 床が濡れて滑りやすくなっていないか
- 高い場所の物を取る際に不安定な踏み台を使っていないか
- 浴室:
- 洗い場や浴槽の床が滑りやすくないか(滑り止めマットの使用)
- 浴槽をまたぐ高さは適切か
- 手すりは設置されているか
- 浴室暖房などでヒートショック対策はできているか
- トイレ:
- 立ち座りを補助する手すりは設置されているか
- 十分な広さがあり、動きやすいか
- 階段:
- 手すりは設置されているか(両側にあるとより安全)
- 滑り止めがついているか
- 十分な明るさがあるか
安全点検を通じて気づいた改善点があれば、親御様やそのパートナーに、安全のため具体的な対策(手すりの設置、段差解消、滑り止めマットの使用、整理整頓など)を提案してみましょう。大きな改修が必要な場合は、住宅改修の補助金制度なども利用できることがあります。この際、ご夫婦で情報を集め、どのように親御様に伝えるか、費用はどうするかなどを事前に話し合っておくとスムーズです。
転倒リスクを減らすための具体的な備え
自宅環境の整備だけでなく、親御様ご自身の体の状態や生活習慣にも目を向け、ご夫婦で協力してリスクを減らすための支援を検討しましょう。
- 運動習慣: 適度な運動は筋力やバランス能力の維持に役立ちます。散歩、ラジオ体操、地域の体操教室など、無理なく続けられるものを一緒に探したり、促したりすることが考えられます。
- 栄養バランス: 骨や筋肉を作るために必要な栄養素(カルシウム、ビタミンD、タンパク質など)をしっかり摂ることも大切です。食事について、親御様やそのパートナーと話す機会を持つのも良いでしょう。
- 履物の確認: 自宅で使用するスリッパや外履きの靴が、滑りにくく、足に合ったものであるかを確認することも重要です。
- 見守り: 離れて暮らしている場合、見守りサービスの利用や、定期的な電話・ビデオ通話で声かけをすることも有効です。最近では、人の動きを感知するセンサーやカメラを活用した見守りシステムもあります。ご夫婦でどのような方法が親御様に合っているか、また費用や使いやすさについて検討してみましょう。
- かかりつけ医との連携: 親御様の既往歴や服用中の薬について把握し、転倒リスクについて医師や薬剤師に相談することも重要です。定期的な健康診断や受診を促すことも、ご夫婦で協力してできるサポートです。
万が一転倒した場合の緊急時の話し合い
どんなに注意していても、転倒は起こりうるものです。万が一の際に、ご夫婦で冷静に対応できるよう、事前に緊急時の連絡体制や対応手順について話し合っておくことが不可欠です。
- 緊急連絡先: 親御様が転倒した場合、誰に連絡すべきかを明確にしておきましょう。親御様自身がすぐに連絡できる相手(近隣の親戚、友人、地域の民生委員など)、そしてお子さんであるご夫婦、親御様のパートナーなど、複数の連絡先リストを作成し、分かりやすい場所に貼っておくのが有効です。ご夫婦間でも、「連絡が入ったらどちらがまず対応するか」「すぐに駆けつけられるか」などを確認しておきます。
- かかりつけ医・病院: 普段から親御様が受診している医療機関や、緊急時に搬送をお願いする可能性のある近隣の病院について情報を共有しておきましょう。
- 救急車を呼ぶ判断: どのような状況であれば救急車を呼ぶべきか、事前に基本的な知識を共有しておくことも大切です。立ち上がれない、痛みが強い、意識がはっきりしない、頭を打ったなど、救急車を呼ぶ目安を家族で確認しておきます。
- 地域包括支援センターなどへの連絡: 万が一の状況や、その後のケアが必要になった場合に相談できる地域の窓口(地域包括支援センター、担当のケアマネジャーなど)の連絡先も夫婦で共有しておきましょう。
- 親御様との情報共有: これらの緊急時の対応や連絡先について、必ず親御様ご本人やそのパートナーにも共有し、確認しておくことが最も重要です。「もし転んだら、まずは落ち着いてこの番号に電話してね」など、具体的な行動を促す形で伝えると良いでしょう。
夫婦で話し合うことの意義
親御様の転倒リスクへの備えについて、ご夫婦で話し合うプロセスそのものが、お互いの不安を共有し、協力体制を築く上で非常に価値があります。
例えば、「私は親の家に行ける頻度が少ないから、あなたが自宅の様子を気にしてもらえると助かる」「転倒防止のためのリフォーム費用について、一緒に情報を集めよう」といった具体的な協力の形が見えてくるかもしれません。また、「親が老いていくことへの不安を、あなたも感じているんだね」と、お互いの感情に気づき、寄り添うきっかけにもなります。
親御様の体の変化やそれに伴うリスクへの備えは、お子さん世代である私たち自身の将来にもつながるテーマです。いつか私たち自身も同じような課題に直面する可能性を念頭に置き、今のうちに知識を蓄え、ご夫婦で協力して乗り越える経験を積んでおくことは、自分たちの老後に向けた大切な準備とも言えるでしょう。
転倒リスクへの備えは一度行えば終わりではありません。親御様の体の状態や生活環境は変化していきますので、定期的にご夫婦で話し合い、必要に応じて見直しを行うことが大切です。不安や課題を一人で抱え込まず、パートナーと分かち合い、共に考え、行動していくことで、親御様の安全を守り、ご夫婦自身の安心にもつながるはずです。