親が病気になったとき:夫婦で始める情報共有とコミュニケーション
親御さんの体の変化、特に病気の告知は、ご本人だけでなくご家族にとっても大きな出来事です。離れて暮らしている場合や、すでに親御さんのパートナー(配偶者)に負担がかかっている場合など、さまざまな状況があるかと思います。こうした状況で、ご自身のパートナー(配偶者)とどのように情報を共有し、協力して向き合っていくかは、多くのご夫婦にとって課題となることでしょう。
体の変化は、いつ、どのように訪れるか分かりません。そして、その変化が親御さん自身のことであるか、あるいはご自身のパートナーやご自身のことであるかにかかわらず、夫婦で情報を共有し、話し合うことは、お互いの不安を軽減し、共に乗り越えるための大切な一歩となります。この記事では、親御さんが病気になったという状況を想定し、夫婦間での情報共有とコミュニケーションについて考えていきます。
なぜ親の病気の情報を夫婦で共有することが大切なのか
親御さんの病気に関する情報を夫婦で共有することは、いくつかの重要な意味を持ちます。
まず、夫婦間で状況に対する共通認識を持つことができます。一方が情報を抱え込み、他方が状況を十分に把握していない状態では、今後の見通しを立てたり、具体的な行動を決めたりすることが難しくなります。
次に、夫婦で協力体制を築くための基盤となります。通院の付き添い、親戚との連絡、情報収集、あるいは将来的な介護への備えなど、病状によっては様々な対応が必要になることがあります。これらのタスクを一人で抱え込むのではなく、夫婦で分担したり、相談しながら進めたりすることで、一人当たりの負担を軽減することができます。特に、遠方に親御さんがいる場合、実際に現地に赴く必要があるか、どの程度の頻度で連絡を取るかなどを夫婦で話し合っておくことは非常に重要です。
さらに、情報共有は夫婦がお互いの精神的な負担を理解し、支え合う機会となります。親御さんの病気は、様々な感情(心配、不安、場合によっては戸惑いや将来への懸念など)を引き起こします。これらの感情をパートナーと共有することで、一人で抱え込む孤独感を和らげることができます。
どのような情報を夫婦で共有すべきか
親御さんの病気に関して、夫婦で共有すべき情報は多岐にわたります。以下は共有しておきたい情報の例です。
- 病名と病状、医師からの説明内容: 診断名、病気の進行度、現在の治療内容、予後に関する情報など、医師から受けた説明の要点を共有します。可能であれば、夫婦で一緒に医師の話を聞く、説明内容を録音・メモして後で共有するなど工夫すると良いでしょう。
- 親御さんご本人の意向: 治療や療養に関する親御さん自身の希望や価値観は最も重要です。どのような医療を受けたいか、どこで療養したいかなど、可能な範囲で親御さんの意思を確認し、夫婦で共有します。
- 関わる他の親族(兄弟姉妹など)の状況や意見: 他にご兄弟がいらっしゃる場合、その方たちの状況(住んでいる場所、仕事、家族構成など)や、親御さんの病気に対する考え、今後の関わり方についての意向なども共有しておくと、協力体制を築く上で役立ちます。親御さんのパートナー(配偶者)の状況や負担についても、夫婦で話し合い、どのようなサポートが必要か、自分たちにできることは何かを具体的に検討することが大切です。
- 利用している、あるいは利用できそうな公的なサービスや制度: 医療保険、介護保険、障害者手帳、高額療養費制度など、利用できる可能性のある公的なサービスや経済的な支援制度に関する情報を共有します。地域包括支援センターや市区町村の窓口で相談できる内容についても、情報として持っておくと安心です。
- 経済的な状況: 治療費、医療費控除、親御さんの貯蓄や収入に関する情報など、経済的な状況も共有しておくと、今後の医療や介護の選択肢を検討する上で現実的な話し合いができます。
これらの情報を一方的に伝えるだけでなく、夫婦で一緒に調べたり、確認したりするプロセスも大切です。
夫婦で話し合う上での難しさと対処法
親御さんの病気というデリケートな問題について、夫婦で話し合うことは必ずしも容易ではありません。「何をどう切り出せばいいか分からない」「相手に心配をかけたくない」「意見が対立したらどうしよう」といった懸念を抱くこともあるかと思います。特に、日々の仕事や生活に追われる共働きのご夫婦にとって、落ち着いて話す時間を作ることも課題かもしれません。
話し合いを始めるにあたっては、まず「話したいことがある」という意向をパートナーに伝え、お互いが落ち着いて話せる時間と場所を設けることが大切です。家でリラックスできる時間帯や、時には少し場所を変えてみるのも良いでしょう。
話し合いの際は、感情的にならず、事実に基づいて情報を共有すること、そして「私はこう感じている」「私はこう考えている」という「私メッセージ」を意識することが、相手を責めるような口調になるのを避けるのに役立ちます。
また、相手の話を遮らずにしっかりと「聴く」姿勢も重要です。パートナーもまた、親御さんの病気について様々な思いや不安を抱えている可能性があります。お互いの気持ちを尊重し、共感を示すことで、より建設的な話し合いが可能になります。
もし、夫婦間で意見の対立が生じたり、感情的なわだかまりが生まれたりした場合は、無理にその場で結論を出そうとせず、一時中断する勇気も必要です。時間を置いて改めて話し合うか、あるいは第三者(ご親族や、必要であれば専門家)に間に入ってもらうことも検討できます。地域包括支援センターの職員やケアマネジャーは、医療や介護に関する情報提供だけでなく、ご家族間のコミュニケーションについても相談に乗ってくれる場合があります。
親御さんの病気という現実に直面することは、夫婦にとって、お互いの価値観や将来への考え方を確認し合う機会でもあります。こうした話し合いを通じて、お二人の絆を深め、自分たち自身の老後について考えるきっかけにもなるかもしれません。
まとめ
親御さんの病気は、ご夫婦にとって新たな課題を提示しますが、これを機に夫婦間での情報共有とコミュニケーションを深めることは、互いの理解を深め、協力して困難を乗り越える力を育みます。
まずは、パートナーに状況を伝え、どのような情報を共有すべきか、そしてどのような話し合いが必要かを共に考えてみてください。話し合いの際には、お互いの感情や立場を尊重し、協力して支え合う姿勢を大切にしてください。
親御さんの体の変化と向き合う過程は、ご夫婦自身の将来について話し合い、備えるための大切な機会でもあります。一つずつ課題に向き合い、夫婦で協力しながら、この変化の時期を乗り越えていかれることを願っています。