夫婦で始める親の介護「前」の準備:意向確認と情報収集のポイント
親の体の変化に備える:なぜ介護が必要になる前の準備が重要なのか
親の体の変化は、多くの場合ゆっくりと進行します。しかし、ある日突然、大きな変化や病気に見舞われ、介護が必要な状態になることも少なくありません。このような「もしも」の事態に慌てず対応するためには、親が元気なうち、あるいは比較的元気な段階で、夫婦で一緒に将来のことを考え、準備を始めることが非常に重要です。
まだ介護が必要でない段階で準備を進めることには、いくつかの大きなメリットがあります。まず、親自身の意向を、より冷静に、より正確に確認することができます。どこで、誰に、どのような介護を受けたいか、ということについて、親の希望を尊重した上で、現実的な選択肢を夫婦で検討することが可能になります。
また、利用可能な公的なサービスや地域の情報を、夫婦で分担して収集し、理解を深める時間を持つことができます。介護保険制度の内容、地域包括支援センターの役割、利用できる施設やサービスの種類など、事前に知っておくべき情報は多岐にわたります。これらを夫婦で共有しておくことで、いざという時にスムーズな対応ができるようになります。
さらに、夫婦間での情報共有や役割分担について話し合うきっかけにもなります。遠方に住む親御さんの場合、物理的なサポートが難しい場面も出てくるでしょう。誰がキーパーソンになるのか、情報のやり取りをどうするか、経済的な負担をどう分けるかなど、具体的なシミュレーションを夫婦で行っておくことは、将来の負担を軽減し、夫婦関係の安定にもつながります。
親のパートナーがいる場合、その方の負担についても考慮が必要です。事前に夫婦で話し合い、親のパートナーも含めた家族全体でのサポート体制をどう築くかを検討しておくことは、円滑なコミュニケーションのために欠かせません。
「まだ大丈夫」「その時になったら考えよう」と考えがちですが、体の変化は予期せぬタイミングで訪れる可能性があります。早めの準備は、親御さんの安心のためだけでなく、私たち自身の心の準備と、夫婦が共に課題を乗り越えるための大切な一歩となります。
夫婦で始める「介護前」準備の具体的なステップ
では、具体的にどのようなことから始めれば良いのでしょうか。夫婦で取り組む準備のステップをご紹介します。
ステップ1:夫婦で「介護」について話し合う時間を持つ
まずは、夫婦がお互いに「親の介護」というテーマについて、どのように考えているかを率直に話し合うことから始めましょう。なぜ今この話し合いが必要なのか、お互いの親御さんについてどのような情報を持っているのか、どのような不安があるのかなどを共有します。
一度に全てを決めようとする必要はありません。定期的に、少しずつでも良いので、このテーマについて話し合う習慣をつけることが大切です。忙しい共働き夫婦の場合、週末の少しの時間や、通勤時間などを活用して、短い意見交換をするだけでも効果があります。
ステップ2:親の現在の状況と将来の意向を確認する
次に、親御さんご自身の現在の健康状態や生活状況を把握します。遠方に住んでいる場合は、電話や帰省の際に、体調や日常生活で困っていることがないかなどをさりげなく尋ねてみましょう。
そして、最も重要なのが、将来について親御さんがどのような意向を持っているかを確認することです。
- どのような生活を続けたいか: 自宅で暮らし続けたいか、施設への入居も視野に入れているかなど。
- もしもの時、誰に頼りたいか: 配偶者、子ども、親族、あるいは専門家かなど。
- 医療や介護について: 延命治療や終末期医療に関する希望など。
- 財産や契約について: 預貯金、不動産、保険、各種契約などの状況。
これらの話題はデリケートなため、直接聞きにくいこともあるかもしれません。親御さんの性格や関係性に合わせて、日常会話の中で少しずつ触れたり、エンディングノートの作成を勧めてみたり、他の兄弟姉妹と協力したりするなど、工夫が必要です。親御さんの意思を尊重しつつ、夫婦で共有できる情報を増やしていくことを目指します。
ステップ3:必要な情報や利用できるサービスを調べる
親御さんの意向や状況が把握できたら、夫婦で協力して関連する情報を収集します。
- 公的な制度: 介護保険制度、医療保険制度、成年後見制度など。
- 地域のサービス: 地域包括支援センター、自治体の高齢者福祉窓口、見守りサービス、配食サービスなど。
- 民間のサービス: 有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、訪問介護・看護サービス、保険外サービスなど。
特に遠方の親御さんの場合、その地域の情報を集める必要があります。インターネット検索だけでなく、地域の地域包括支援センターに問い合わせてみるのも良いでしょう。情報収集は分担し、得た情報は必ず夫婦で共有し、理解を深めます。
ステップ4:夫婦間での役割分担やサポート体制について話し合う
収集した情報や親御さんの意向を踏まえ、夫婦で具体的な役割分担やサポート体制について話し合います。
- 誰が親御さんとの主な窓口になるか。
- 情報の収集や整理は誰が担当するか。
- 定期的な連絡や訪問はどのように行うか(遠方の場合)。
- 緊急時の連絡体制や対応を決めておく。
- 経済的なサポートが必要になった場合、どのように分担するか(自分たちの老後資金計画との兼ね合いも考慮)。
夫婦の一方に負担が偏らないように、お互いの仕事の状況や体力、得意なことなどを考慮しながら、無理のない範囲で役割を決め、協力していく姿勢が大切です。
準備を進める上でのヒントと注意点
準備は一度行えば終わり、というものではありません。親御さんの状況や社会の制度は変化していくため、定期的に見直し、話し合いを続けることが重要です。
話し合いが感情的になったり、意見が対立したりすることもあるかもしれません。そのような時は、一時的に話し合いを中断し、冷静になってから再開するなど、お互いの感情に配慮しながら進めましょう。
また、全てを夫婦だけで抱え込まず、必要に応じて専門家(地域包括支援センターの職員、ケアマネジャー、ファイナンシャルプランナー、弁護士など)の助言を求めることも有効です。第三者の客観的な視点が、解決の糸口となることもあります。
まとめ
親の介護は、いつか向き合う可能性のあるライフイベントです。体が変化する前に、夫婦でしっかりと話し合い、親御さんの意向を確認し、必要な情報を収集しておくことは、将来の不安を軽減し、スムーズな対応のために非常に有効です。
早めの準備は、親御さんにとって望む形で人生の後半を過ごすためのサポートとなり、私たち夫婦にとっては、予期せぬ事態に慌てず、お互いを支え合いながら乗り越えるための土台となります。完璧を目指すのではなく、夫婦で協力しながら、できることから一歩ずつ準備を進めていくことが大切です。この取り組みを通じて、夫婦の絆もより一層深まっていくことでしょう。